私は柿が嫌いだった。  実家の庭には柿の木があり、祖父の代から2年に一度実が生った。今年は不思議とその収穫の年であった。

 今は弟夫婦が住まうその家に、施設に入るまで父が過ごしていた六畳間の和室がある。身体が不自由になった父は、その窓から庭を眺め季節を感じることで癒されていたように思う。窓越しに見上げると、乾いた青空に映える柿の実をヒタキや目白が交互につつきに来ているのが見えた。

実家とはいえ世話になる居候な身、何かできる家事はないかと弟に尋ねてみた。

「ひとつだけある。落ち葉拾いをしてくれると助かるんだけど…」

 子供の頃から秋になると、毎日のように食卓に出された柿の実に嫌気がさしていたので、今年その実が鈴なりなことは、初め気にも留めなかった。柿の手前には紅枝垂れ、後ろには立派な松があり、庭は雑草と2年分の落ち葉で鬱蒼としていた。それを拾い集めるうち、数メートルの高さから落ちたのに、割れていない柿が不意に葉陰から現れた。そうだ。父に持って行ってあげよう。私は落ち葉を拾いながら形の綺麗な柿を探した。若い頃、父がキャンバスに描いていたような、まだ熟していない青い柿を。

 その日病院で枝付きの柿を父に見せると、普段無表情で苦しそうな父の顔が、ぱっと明るくなった気がした。何も言わずとも、父にはその柿がどこから来たのかわかったのだ。それを手渡すと、しっかりと握りしめ感慨深そうに眼をつぶっていた。

 父は柿を食べられる状態ではなかった。だから私は、父からよく見えるところに柿を置き、その周りに家の庭から持ってきた紅枝垂れの真っ赤な葉や、松ぼっくりをあしらえ、白く無機質な病室でも秋を感じられるようにした。私が帰った後の長い夜、柿が苦しむ父のお供をしてくれることを願った。

 柿が熟したら食べずに持ち帰り、元の根元に戻した。そしてまた別の柿を持って行った。そして三個めの柿は、父と共に棺に入ることになった。

病床で

父の苦しみ分けた柿

鳥に食われて舞い上がらん

                第一章                                        2017


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